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東京地方裁判所 昭和34年(ワ)1557号 判決 1960年2月15日

原告 黒田清治

右訴訟代理人弁護士 岩本寶

被告 田中鍬三

右訴訟代理人弁護士 斎藤治

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

原告主張の要点は、「原告は被告からその所有にかかる別紙目録記載の宅地を賃借し、当時から右の宅地上に登記した建物を所有しているが、被告は右宅地の一部である本件宅地を訴外人等に売却譲渡するとともに、本件宅地に対する原告の占有を侵奪した上、右訴外人等をしてその買受にかかる本件宅地上に木造建物を建築させた。

被告の右後段の所為は、原告の本件宅地に対する借地権を不法に侵害して権利の行使を妨げ若しくは不能にしたもので、右は被告の本件宅地についての賃貸借契約上の債務不履行を構成するものであり、原告は被告の右債務不履行に因り損害を蒙つたから被告に対し右損害の賠償を求める。」というにある。

依つて、原告主張の如き被告の所為が、原告主張の如く被告の賃貸借契約上の債務不履行となるか否かについて審按するに、原告の主張によれば、原告は前記の如くその賃借にかかる別紙目録記載の宅地上に右賃借当時から登記した建物を所有しているというのであるから、原告は建物保護に関する法律(明治四十二年法律第四十号、以下建物保護法と略称する。)第一条の規定により、右の借地権をもつて、第三者に対抗し得るものである。かかる場合、原告主張の如く、別紙目録記載の宅地の一部である本件宅地の所有権が訴外人等に譲渡された場合においては、原告と被告との間に本件宅地についての賃貸借契約上の法律関係は一括して新所有者である右訴外人等に法律上当然に承継され、旧所有者である被告は右の法律関係から脱退するものであると解するのが、右建物保護法第一条の規定の解釈上相当である。故に、被告は本件宅地を右訴外人等に譲渡することによつて、本件宅地の賃貸人たる地位から法律上当然に脱退したものというべきであり、その時以後、被告は原告に対し本件宅地の賃貸人としての一切の権利義務を有せず、従つて原告に対し、かつ使用収益に適した状態におく義務を負うていないものというべきである。然らば、原告主張の如く、被告が本件宅地に対する原告の占有を侵奪した上、本件宅地の新所有者である訴外人等をして本件宅地上に建物を建築させたとしても、訴外人等が被告の賃貸人たる地位の承継者として債務不履行の責に任ずることあるは格別、既に賃貸人たる地位を去つた被告の債務不履行となるものでないことは明らかである。

果して然らば、被告の前記所為が賃貸借契約上の債務不履行となることを前提とする原告の本訴請求は、その主張事実自体によるも理由がないものと云わなければならない。仍つて原告の本訴請求は失当として棄却すべものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 近藤完爾 裁判官 池田正亮 斎藤次郎)

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